インタビュー

《法学部オモシロ研究》「文化社会学」小林 義寛 教授 アイドルオタクだって、明日は学校に行く、でしょ?

古い価値観で今を判断していいの?

“オタク”という言葉は、一つの趣味に過剰なまでに没頭している人を意味することが多いようです。日本では犯罪と結び付けた報道などの影響もあり、負のイメージも浸透してしまいました。しかし、本当にオタクは「何をするか分からない人たち」なのでしょうか。何を求め、何を楽しみとして、何を創造しているのかを知らず、既成の価値観の中だけで考えようとするために多くの誤解や偏見が広まってしまうこともあります。アイドルを追いかけ、声を嗄らして声援を送るアイドルオタクにも、一人ひとりに日常生活があります。頭の中では、学校の宿題のことや家のお手伝いのことを気にしているかもしれないのです。

誤解を解く武器は自分の目と耳

日本文化のカッコ良さを表す“クール・ジャパン”という言葉には、伝統的な武道から家電製品、現代アートまで幅広い要素が含まれています。中でも際立っているのがマンガやアニメです。そのせいか“コスプレ”も日本発の文化だと思われています。しかし、それは完全な誤解。アメリカでは1960年代にテレビドラマの登場人物に扮した人がSF系イベントに登場して話題になりました。また、マンガやアニメは子供のものという理解も少し違います。アメリカン・コミックは大人を対象とした娯楽であり、フランスで“バンド・デシネ”と呼ばれるマンガは芸術として扱われています。誰かがつくった枠組みに縛られず、自分の目と耳で丹念に物事の本質を見つめる。それが人間や社会を“本当に理解する”ことになるのです。

これって実は「文化社会学」<br>サブ・カルチャーは<br>特別な人が作ってるわけじゃない

アマゾンの奥地で現代文明と無縁な暮らしをする人々の風習や生活様式を知るには、しばらく一緒に生活してみるしかありません。それは都市においても同じです。ある人やグループの活動を理解するためには、体験を共有することが一番。そういう人類学的な手法を用いてサブ・カルチャーの担い手に関わるようになって25年以上。そこで見えてきた“オタク”たちの実像は、ある時はオーディエンス(聴衆)であり、ある時はファン(熱烈な支持者)であり、そしてある時は部屋の片づけをしている当たり前の若者の日常生活でした。そのようなオタクたちの日常性と文化的側面に注目することで、人や社会に対する理解を深めるのが私の研究テーマ。メディアやコミュニケーションに関心がある人なら多くの気づきが待ち受けている分野だと思います。

プロフィール

小林 義寛/YOSHIHIRO KOBAYASHI
1983年、神奈川大学法学部卒業。1995年、日本大学大学院文学研究科修了。2000年より日本大学法学部専任講師。助教授、准教授を経て、2013年より教授。『それぞれのファン研究』(共著)風塵社、『ニュース空間の社会学』(共著)世界思想社など、著書、論文多数。